こんにちは!おハムです
何年も担当している98歳のAさんは、超高齢で徐々に弱ってこられています
終末期に差し掛かっている状況ですが、キーパーソンである娘さんの先延ばしタイプでなかなか細かいことが決められません
この方のACPはなぜ進まないのか。。。どのような対応が望ましいのか考えてみました
登場人物
98歳 女性 要介護3
がんなどの基礎疾患はあるが現在も症状があるのは便秘のみ
寝たきり全介助
認知症はあり。重度な難聴
娘 60歳、夫とAさんと3人暮らし
片付けが苦手 やろうと思ったことがなかなか出来ない
在宅介護5年目
看護師は保清・病状管理・脳トレ
理学療法士が歩行訓練していたのですが、現在は可動域訓練を中心に関わっています
担当ケアマネ:おハム
居宅介護支援:4年目
春
97歳!本当にすごいです
今の家は母を介護するために建て直したんです
母にとって一番慣れた環境で出来るだけ最後まで家で見てあげたいと思っています
ここにおるのが1番いいね
夏
老衰状態ですね
寝ていることが増えました
食事の量も減っています
先のことを考えていきましょう
先のことって言われても…
母が死ぬってことですか?
でも、病院に入院すると感染予防のため全く会えなくなってしまう
どうしたらいいのか…通院も本人の負担が大きいから、連れて行くのもかわいそう
秋
母や兄弟とも話してみました
訪問看護さんに先のことを決めるように何回も言われて…
どうしていいのかわかりません
私は母には1日でも長く生きてもらいたいと思っています
点滴などの治療も積極的にやってほしいです
娘さんは「1日でも長く生きてもらいたい」けど、Aさんはどう思っているのかな?
寝たきりのAさんには、難聴もあり簡単な質問にたまに答える程度
本人に確認は相当難しいし、ショックを受けそう…
とりあえず、通院から往診に切り替えました
往診医は本人の意向の確認ができませんでしたが、家族の希望を確認し点滴を行うことになりました
看護師さんからは「98歳なのに点滴やるの?かわいそう」という声も。。。
さぁ!あなたが担当ケアマネジャ―ならどうしますか????
ACPとは
まずは、ACPのおさらいから!
A:advanced:前もって
C:care:治療や療養の場について
P:planning:話し合うプロセス
「人生会議」という名称が付きました
「話し合いを何回も重ねる」ことで、残された人が本人の「推定意思」の判断ができることを目指します。話し合いを重ねることで、考えが変わったり、「このようなときにはこうしてほしい」と具体的に話し合うことで、残された人が本人が判断できない場合に代わりに本人の意思を汲んで判断できる状態を目指します
DNARとか、リビングウィルとか似たような言葉が多くてよくわかならないな。
・リビングウィル(事前指示)
「あらゆる手段を使って生きたい」「平穏死」「自然死」などについて、自分の意思を元気なうちに書面に残しておくこと
・DNAR
蘇生に成功することがそう多くない場合において、患者本人または患者の利益にかかわる代理者の意思決定をうけて心肺蘇生法をおこなわないこと。
ACPのなかに、リビングウィルやDNARの概念が含まれます
ACPをしないと、「抗がん剤を死の直前まで行い続ける」…など、死の直前まで本人の望まない暮らしになり得る
ACPをすることで、本人や家族の満足度の向上。残された家族の鬱になる確率の低下につながるという研究結果があります
ACPのメリット
・利用者の自己コントロール感が高まる
・利用者・家族・医療者・チームとのコミュニケーションが改善
・遺族の不安や鬱が減少する
ACPのデメリット(難点)
・早すぎるタイミングで行うと害が発生する場合がある
・治療不可能な利用者は、不可能と理解できない場合がある
・すべての利用者が適応できるわけではない
・患者の背景や、心の準備状態によって内容を変える必要性がある
・タイミングを逃さない実施が必要
ACPを実際どのように行っていくか
【3段階のACP】
1段階:一般市民に対して→テレビなどで話題になったときにどのように話しているのか考え方を探る。「もしバナゲーム」↓↓↓を活用する
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この段階で介入が可能であれば、「もしもの時の代弁者」を本人に確認してみましょう
2段階:病気や病状に応じて→医師からの病状説明の際など
目安は「1年以内に亡くなっても驚かない人」
・信頼できる人・もしもの時の代弁者は誰か
・信頼できる人・医療スタッフ・ケアチームを含めた話し合いを重ね、結果を共有する(その選択をした理由こそが大切な価値観。気持ちは《変わるもの》なので、話し合いの結果を印籠のように使わない)(本人の意向の表出を促す援助者の関わりが必要)
ACPの話を進める流れ(今→過去→未来の順に話を聞いていく)
1)利用者の理解と意向を確認する
2)今後の見通しを共有する
3)大切なことについて聞く(目標・不安・支えになるもの・受けたい治療)
利用者自身が自分の価値観を知るきっかけになり、家族も心の準備ができます
死期が近くなるほど、病状が悪くなるほど本人には聞きにくい内容になります
ケアマネとして関わり始めた時点から、確認するチャンスを狙いましょう
ただ、ACPの押し付けは厳禁です
本人や家族を強く傷つけてしまう事があります
急ぐ状況でなければ「今すぐに答え」を求めるのではなく、考えるきっかけを少しづつ提供していくことで、本人や家族の心の準備ができることを待ちます
3段階:死が近づいた時→医師からの病状説明の際など
・気持ちは《揺らぐ》もの。その揺らぐ気持ちを受け止めることが大切
揺らいだその理由を確認する
一緒に考え、ともに生きることが大切!
その判断をジャッジしないこと!どうすれば可能になるか、みんなで考える
「死」を考えることは今をよりよく生きることと言えます
「もう少し詳しくお話してもらえますか?」
「今はどう思っていますか?」
など、《相手の気持ち》を聞くことが大切です
利用者と家族・家族間で意向が異なる場合
・利用者・家族の訴えを傾聴し、気持ちに共感する
・利用者と家族の意見を別々に聞く機会を持つ
・病状の認識に相違がないか確認する
・メリット・デメリットを明確にして落としどころを考える
・一緒に話し合いができる場を作る(コミュニケーション不足が原因であることもある)
利用者の意向に反して治療を希望される家族の多くが、「食事を食べる量が乏しい」ことに対して、「何かしてあげられることはないか」と考えて、判断する人が多い
「治療をしない」という判断には、罪悪感を伴う家族もみえます
《何かをすることより》も《そばにいること》が大切!
冬:結果
人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(一部抜粋)
1 人生の最終段階における医療・ケアの在り方
① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて
医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・
ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、
人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。
また、本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思を
その都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ、本人と
の話し合いが繰り返し行われることが重要である。
さらに、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、
家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いが繰り返し行われることが重
要である。この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する
者として前もって定めておくことも重要である。
② 人生の最終段階における医療・ケアについて、医療・ケア行為の開始・不開始、
医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、医療・ケアチームによっ
て、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。
③ 医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和
し、本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うこ
とが必要である。
④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としな
い。
2 人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続
人生の最終段階における医療・ケアの方針決定は次によるものとする。
(1)本人の意思の確認ができる場合
① 方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医
療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。
そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合い
を踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・
ケアチームとして方針の決定を行う。
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② 時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が
変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供
と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるよう
な支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられな
い状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行わ
れることも必要である。
③ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくも
のとする。
(2)本人の意思の確認ができない場合
本人の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチー
ムの中で慎重な判断を行う必要がある。
① 家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人に
とっての最善の方針をとることを基本とする。
② 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善である
かについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての
最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的
評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。
③ 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、
本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくも
のとする。
(3)複数の専門家からなる話し合いの場の設置
上記(1)及び(2)の場合において、方針の決定に際し、
・医療・ケアチームの中で心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な
場合
・本人と医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容
についての合意が得られない場合
・家族等の中で意見がまとまらない場合や、医療・ケアチームとの話し合いの中
で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合
等については、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置し、医療・ケアチ
ーム以外の者を加えて、方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。
お母さんは、どこでどのように最期の期間を過ごしたいと考えているのか推測できますか?
そんな話をしたことがないから分かりません
母のために過ごしやすいようにリフォームしたから、私はここで看取ってあげたいと考えています
家族が「本人の意思を推定できない」場合は…複数の専門家からなる話し合いの場の設置!
往診日に訪問看護師とともに同席する
娘さんは「1日でも長生きをしてほしい」と考えていますが、ご本人はどのように考えていると思いますか?
私が聞いておけばよかったんですけど…
お話ができるうちは、「もう十分に生きた」と満足したような様子で話されていました
Aさんは、毎日痛い思いをして点滴をすることを望まれているのか…?心配になります
ずっと昔にAさんのお姉さんがなくなったときに、病院でチューブにつながれている姉を見て「かわいそう」と話していたことを思い出しました
母は、今の点滴を毎日している自分を見ても「かわいそう」と思うのかもしれない
ただ食事がほとんど食べられないのに、点滴をしないなんてかわいそうに思う
点滴もいいことばかりじゃなくて、デメリットもあります
「もう十分に生きた」と思っているAさんに、点滴をすることってAさんはどう感じているのでしょうか?
実は毎日点滴をするときの痛そうな表情を見ることも辛いと感じていました
母が話ができたら「やめてほしい」というように感じます
痛いことはやめて、食べられる分だけの食事や水分をとれるようにして、自然に穏やかに過ごしていきたいと思います
結果・まとめ
チームの話し合いで「点滴をやめる」ことにしたAさんは、徐々に食事や水分が摂取できるようになり、いまでもお元気です
「点滴をすることに対してモヤモヤしていたケアチーム」と「点滴をやらないことに対して罪悪感を感じてしまう家族」。センシティブな内容であり、気軽に意見ができる内容ではありませんでした
本来であれば、元気なうちから家族やチームが「意思推定できる状態」をつくることが必要であったのに対して、かかわりの乏しさが露呈した事例でした
病院・在宅にかかわらず、終末期に家族やケアマネジャーに「推定意思の確認」を受けることが多くなってくると予想されます
その時に、「このように言っていることを聞きました」「このように言うと思います」と明確に伝えることができるように、日ごろからの関わりが必要であると痛感しました
↓認知症の方のACP↓
↓看取り期におけるケアマネジャーの強み↓
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